皮膚腫瘍グループ Dermatologic Oncology Group:DOG
皮膚腫瘍グループ Dermatologic Oncology Group:DOG
- グループ代表者:並川健二郎(国立がん研究センター中央病院)
- グループ事務局:緒方大(国立がん研究センター中央病院)
- 主任研究者:中村泰大(埼玉医科大学国際医療センター)
- グループ代表委員:宇原久(札幌医科大学)
大芦孝平(埼玉県立がんセンター)
竹之内辰也(新潟県立がんセンター新潟病院)
中村泰大(埼玉医科大学国際医療センター)
藤澤康弘(筑波大学)
山﨑直也(国立がん研究センター中央病院)
吉川周佐(静岡県立静岡がんセンター) - 設立:2012年
※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担う
メンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。
皮膚悪性腫瘍の現状
皮膚悪性腫瘍は一般に悪性黒色腫(melanoma:メラノーマ)と悪性黒色腫以外の皮膚がん(non-melanoma skin cancer)の2つに大きく分類されます。悪性黒色腫の大半は皮膚に発生しますが、色素細胞(メラニン細胞)の存在するところにはどこにでも発生しうるため、結膜やぶどう膜、鼻腔、口腔、食道、胃、直腸、肛門、膣、外陰などに発生する悪性黒色腫も稀ながら存在します。本邦での発生率は人口10万人あたり1~2人とされ、早期に転移を起こす代表的な予後不良な腫瘍の1つです。
悪性黒色腫以外の皮膚がんとしては、有棘細胞癌、血管肉腫や乳房外Paget病が挙げられますが、いずれも希少がんのため、これらへの治療に関するエビデンスがほとんどなく、治療開発のためには多施設共同研究が必要となります。
悪性黒色腫に対する研究の展望
歴史的にみて悪性黒色腫の治療は手術を中心に発達してきました。現在は個別化、低侵襲化へと転換してきています。悪性黒色腫はセンチネルリンパ節理論が成立する腫瘍の1つであり、臨床的に転移を有さない浸潤性の皮膚原発悪性黒色腫に対しては原発巣の切除及びセンチネルリンパ節生検が標準的な手術治療として確立しています。皮膚原発悪性黒色腫は人種差が存在するため、アジア人あるいは日本人を対象にした臨床研究は重要であると考えます。特に手足の末端に発生する末端黒子型はアジア人に多く見られるため、この領域での治療開発が重要と思われます。この中で、私たちは切除範囲が定まっていない爪部悪性黒色腫について、従来、指の切断が行われてきた対象に対して、より低侵襲な治療開発を目指し、指の温存が可能かどうかを明らかにする試験を現在実施しています(JCOG1602試験)。
悪性黒色腫に対する薬物治療はここ数年で劇的に変化しました。それは主に免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬に分類されます。前者がニボルマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブとイピリムマブ併用療法などであり、後者にはダブラフェニブとトラメチニブ併用療法あるいはエンコラフェニブとビニメチニブ併用療法などが含まれます。日本でもこれらの多くの薬剤が使用可能となり、日本と欧米の間にあったドラッグラグはほぼ解消されました。今後さらにこれらの薬剤を含んだ多剤併用療法や、新規治療法の開発を積極的に行っていくことが必要です。 また再発予防を目的とした術後補助療法に関しては、現在ではリンパ節転移を有する病期IIIに対してニボルマブ、ペムブロリズマブ、ダブラフェニブとトラメチニブ併用療法が標準治療として確立されています。しかしながら、これらの術後補助療法を行っても再発する患者さんもいることや、病期IIに対する術後補助療法は未だ確立されていないことから、JCOG皮膚腫瘍グループでは、日本で従来使用されていたインターフェロンβの術後補助療法としての役割を明らかにするために、ランダム化比較試験(JCOG1309)を現在行っております。
有棘細胞癌、血管肉腫や乳房外Paget病に対する研究の展望
有棘細胞癌は皮膚がんの中では2番目に発生頻度の高い腫瘍であり、リンパ管を経由して転移をきたす疾患です。手術前にリンパ節転移があると診断されている場合には根治的リンパ節郭清が標準治療ですが、悪性黒色腫のようにセンチネルリンパ節生検の有用性が認められれば、微小転移の段階で郭清を行うことで生存率の改善が得られる可能性があります。有棘細胞癌を対象としたセンチネルリンパ節生検の多施設共同研究は我々にとって1つの大きな課題です。
血管肉腫は非常に稀な疾患ですが、5年生存割合は15%前後と、悪性黒色腫よりも低く、全ての皮膚悪性腫瘍のなかで最も悪性度が高い腫瘍であり、手術や放射線治療を含めた集学的治療の開発が課題です。血管肉腫に対する薬物治療として最近ではパクリタキセル療法が保険適用され第一選択として使われるようになってきました。しかし、それ以降の薬物治療の効果については不明な点が多く、当グループでは有効な新規治療法の開発を目的とした臨床試験を実施中です(JCOG1605)。
乳房外Paget病は皮膚の腺癌であり、多くの場合は病変が表皮内にとどまり予後は良好ですが、まれに所属リンパ節転移を起こすと予後は悪く、病期分類さえ存在せず、治療法の開発は遅れています。本疾患については海外での研究はそれほど盛んではないため、国際的にも先頭に立って情報発信をしていく必要を感じています。センチネルリンパ節生検の有効性の確認を含めリンパ節転移に対する治療の標準化や薬物療法、放射線治療も含めた集学的治療に関する研究を行っていきたいと考えています。
日本から世界に向けて皮膚がん治療のエビデンスを示していく時代がやってくることを信じています。
※グループ活動の紹介文は、2020年9月に更新したものです
実績