婦人科腫瘍グループ Gynecologic Cancer Study Group:GCSG

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婦人科腫瘍グループ Gynecologic Cancer Study Group:GCSG

  • グループ代表者:佐藤豊実(筑波大学医学医療系)

  • グループ事務局:石川光也(国立がん研究センター中央病院)

  • 主任研究者:佐藤豊実(筑波大学医学医療系)
    渡利英道(北海道大学病院)
    温泉川 真由(がん研究会有明病院)

  • グループ代表委員:有本貴英(虎の門病院)
    恩田貴志(山王病院)
    小林裕明(鹿児島大学大学院)
    高野忠夫(東北大学病院)
    武隈宗孝(静岡県立静岡がんセンター)
    西尾真(久留米大学)
    荷見よう子(三井記念病院)
    松本光史(兵庫県立がんセンター)
    渡利英道(北海道大学病院)

  • 設立:1995年

       

※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担うメンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。

          

グループの歴史

JCOG婦人科腫瘍グループは、1994年-1997年度厚生省がん研究助成金「進行卵巣癌に対するdose-intensive chemotherapyの有効性に関する研究」班(主任研究者:恒松隆一郎)を中心として結成されました。厚生(労働)省がん研究助成金としては、1998-2001年度に「婦人科悪性腫瘍に対する新たな治療法の開発に関する研究」班(主任研究者:吉川裕之)へ受け継がれ、同じテーマ名の班として、2002-2005年度(主任研究者:嘉村敏治)、2006-2009年度(主任研究者:小西郁生)まで、1994年から計16年継続しました。さらに、厚生労働科学研究費として2001-2003年度「進行卵巣癌の予後改善を目指した集学的治療の研究」班、2004-2006年度「進行卵巣がんの集学的治療に関する研究」班、2007-2009年度「進行卵巣がんにおける化学療法先行治療の確立に関する研究」班、2010-2012年度「化学療法先行治療を進行卵巣がんの標準治療とするための研究」班(研究代表者:吉川裕之)、2002-2005年度に「子宮頸癌の予後向上を目指した集学的治療における標準的化学療法の確立に関する研究」班(研究代表者:嘉村敏治)、2006-2008年度に「進行・再発子宮頸癌に対する標準的治療体系の確立に関する研究」班(研究代表者:嘉村敏治)、2010年度は、国立がん研究センターがん研究開発費として、「婦人科領域の稀ながんおよび病態に対する標準的治療法の確立に関する研究」班(主任研究者:笠松高弘)が加わりました。他に、がん研究助成金指定研究「高感受性悪性腫瘍に対する標準的治療確立のための多施設共同研究」班(主任研究者:堀田知光)の一部、国立がん研究センター研究開発費「高感受性悪性腫瘍に対する標準治療確立のための多施設共同研究」班(主任研究者:飛内賢正)の一部、「成人固形がんに対する標準治療確立のための基盤研究(JCOG)」(主任研究者:大江裕一郎)の一部の研究費も、グループ独自の厚生労働科学研究費、日本医療研究開発機構(AMED)研究費に加えて、JCOG婦人科腫瘍グループを支えてきました。グループにおけるJCOG試験をサポートするAMED研究費は、「早期子宮頸がんに対する機能温存低侵襲手術の確立に関する研究」(研究開発代表者:笠松高弘、有本貴英)、「上皮性卵巣癌の妊孕性温存治療の対象拡大のための非ランダム化検証的試験」(研究開発代表者:吉川裕之、佐藤豊実)、「進行・再発子宮頸癌の予後向上を目指した集学的治療の開発」(研究開発代表者:八重樫伸生、石川光也)、「リンパ節転移リスクを有する子宮体癌に対する標準的リンパ節郭清確立のための多施設共同臨床試験(研究開発代表者:渡利英道)があります。本グループは、婦人科腫瘍医の他に腫瘍内科医、病理医、放射線治療医、放射線診断医が加わって構成されています。参加施設も増えて2023年現在51施設からなるグループです。


   

婦人科腫瘍グループにおけるJCOG試験

JCOG試験としては、これまでに6つの臨床試験(JCOG9412、JCOG0102、JCOG0206、JCOG0503、JCOG0505、JCOG0602、JCOG1101、JCOG1311)と、附随研究としてJCOG0806-Aを行ってきました。

  1. JCOG9412
    進行卵巣癌を対象とした術後補助化学療法としてのdose intensive CAP(cyclophosphamide + adriamycin + cisplatin)療法の第II相試験で、婦人科腫瘍グループで行った最初のJCOG臨床試験です。効果は良好で、有害事象は許容範囲内のため、有用なレジメンと考えられましたが、より有害事象の少ない新規抗癌剤の出現により、第III相試験に進むことは出来ませんでした。結果は1997年の国際婦人科癌学会(IGCS)で報告されました。
  2. JCOG0102
    婦人科腫瘍グループとして行った初めてのランダム化第III相比較試験で、IB2-IIB期子宮頸癌に対する術前化学療法(NAC)の有用性(優越性)を検証した試験です。当初200人を予定して計画いたしましたが、108人を対象として行われた中間解析にて、登録を継続してもNAC群の優越性が証明される可能性が低いと判断され、残念ながら試験の早期終了が勧告されました。本試験の結果は2006年、2010年2回の米国臨床腫瘍学会(ASCO)発表を行い、2013年にはBritish Journal of Cancer誌に論文として最終報告されています。
  3. JCOG0206
    進行卵巣癌に対するNACの第III相試験を意識して行われた、feasibility試験(第II相試験)です。56人が登録され、NAC療法の有効性および、対象疾患(III/IV期の卵巣癌、卵管癌、腹膜癌)が、臨床的に適切に診断可能であるかを検討いたしました。その結果、NAC療法で良好な治療成績が得られ、また対象疾患は臨床的に十分に診断可能であることが示されました。これを受けて、後述するように第III相試験としてJCOG0602が行われることとなりました。この試験の概要は2004年にJapanese Journal of Clinical Oncology(JJCO)誌で発表され、結果は2009年にGynecologic Oncology(Gynecol Oncol)誌に論文発表されています。
  4. JCOG0503
    再発卵巣癌に対する救済化学療法としてのirinotecan静注とetoposide内服の併用療法の有効性と安全性を評価した第II相試験です。60人が登録され、13人で奏効が得られましたが、設定された閾値をわずかに下回り、有用性は高くないと判断され、第III相試験には進めませんでした。この試験の概要は2010年のASCOおよび2012年のJJCO誌で報告され、結果は2013年にASCOで発表された後、2015年にGynecol Oncol誌に論文発表されています。
  5. JCOG0505
    第III相試験のJCOG0505は、IVb期、再発子宮頸癌に対するpaclitaxel + cisplatin併用療法(TP療法)とpaclitaxel + carboplatin併用療法(TC療法)の世界で唯一のランダム化比較試験として行われ、子宮頸癌に対してTC療法の有用性(生存期間における非劣性)を証明することができました。この結果は2012年のASCOで口演発表、2015年にJournal of Clinical Oncology(JCO)誌に論文発表され、世界の注目を集めました。試験の概要は2010年にJJCO誌に報告されています。また、附随研究として予後因子の解析が行われ、割付調整因子として用いられたPSの他に、プラチナフリー期間、治療前Hb値が有意な予後因子であることが示され、2016年にCancer Chemotherapy and Pharmacology誌に論文発表されました。
  6. JCOG0602
    Feasibility試験のJCOG0206の結果を受けて行われた、第III相試験のJCOG0602は、III期/IV期卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に対する標準治療である手術先行治療と化学療法先行治療のランダム化比較試験であり、抗がん剤の奏効割合が高いこれらのがんに対して手術を先にするか、化学療法を先にするかという治療選択に影響を与える重要な研究であり、ヨーロッパで行われた同様のEORTCやMRCの比較試験と並んで、世界的にも注目を集めました。この試験の概要は2008年にJJCO誌に報告されています。最終解析に先立って副次的指標の治療侵襲が解析され、化学療法先行群の治療侵襲が軽減されることが2016年にEuropean Journal of Cancer(EJC)誌に論文発表されました。最終解析では、化学療法先行治療の手術先行治療に対する非劣性は示されませんでしたが、ほぼ同等の治療成績で、化学療法先行治療が有用となる条件が存在することが、2020年にEJC誌に発表されました。また、副次的指標の治療前の画像診断による卵巣癌の進行期診断の有用性の解析が、手術先行群を対象に行われ、画像診断による卵巣癌III期病変(>2 cm or LN)の診断は99%の感度と陽性的中度であったが、IIIB期病変(≦2 cm)の陽性的中度は十分ではないことが示されました。この結果は、2021年にJJCO誌に発表されました。
  7. JCOG0806-A
    本研究は、腫瘍径の小さいIB1期子宮頸癌に対する縮小手術の有用性を検証する後述のJCOG1101に先行して、附随研究として行われた調査研究です。腫瘍径2 cm以下の子宮頸癌においては、広汎子宮全摘により、非常に良好な予後が得られていること、傍子宮組織への浸潤割合が低いこと等が示され、2015年にGynecol Oncol誌に論文発表されました。この結果を受け、対象患者に対して後遺症の少ない準広汎子宮全摘の安全性、有効性を検証するJCOG1101が開始されています。
  8. JCOG1101
    先行研究JCOG0806-A(上述)を経て、腫瘍径2 cm以下の子宮頸癌を対象に切除範囲を縮小する準広汎子宮全摘の安全性と有効性を検証するJCOG1101が行われました。試験には240名が登録され、5年間の追跡期間の後に主たる解析が行なわれました。その結果、準広汎子宮全摘を行っても予後の低下を招くことがないことが確認されました。さらにこれまでの標準術式である広汎子宮全摘出術に伴って発生する排尿障害を有意に減少していることも確認されました。この結果は2023年のASCOで発表され、現在論文公表に向けて作業が行われています。本試験の結果から、準広汎子宮全摘出術は早期子宮頸癌に対する新たな標準術式と考えられることになります。
  9. JCOG1311
    進行再発子宮頸癌の予後改善を目標とした治療開発の流れとして、JCOG0505の後継試験として計画されました。標準治療はJCOG0505で有用性が確認されたTC療法で、paclitaxelを毎週投与するdose-dense TC療法の有効性を検証しました。dose-dense TC療法は卵巣癌で有効性が示されているものの再発子宮頸癌での有効性は示されておらず、本試験は第II/III相試験として実施されました。試験開始後に分子標的薬bevacizumabが本邦で薬事承認され、本試験は両群にbevacizumabを付加する形に変更して継続されました。第II相で試験治療群が標準治療を効果で上回ることが示されなかったため、本試験は第II相で終了となりました。試験の主たる解析結果は2020年のASCOで示説発表され、2021年にはGynecol Oncol誌にて論文発表されました。2年間の追跡期間を経て最終解析が行なわれ、2022年のIGCSおよびInt J Gynecol Cancer誌に論文発表されました。

    現在進行中の試験としては、早期卵巣癌に対する妊孕性温存治療の有用性を検証するJCOG1203、子宮体癌に対する傍大動脈リンパ節郭清の有用性を検証するJCOG1412、子宮頸癌に対する術後強度変調放射線治療(IMRT)の有用性を検証するJCOG1402(放射線治療グループとのインターグループ試験)があります。さらに新規臨床研究として高齢卵巣がん患者の化学療法による重篤な有害事象の発生を予測するスコアリングシステムの構築を目指した前向き観察研究JCOG1913Aの準備が進められています。

           
 

JCOG試験以外の調査研究および臨床試験

以下に婦人科腫瘍グループで行った調査研究の課題および結果を紹介します。

    1. 若年性子宮体癌(Ia期)および子宮内膜異型増殖症に対するMPA(medroxy-progesterone acetate)によるホルモン療法による妊孕性温存
      まず最初に、婦人科腫瘍グループ参加施設において後方視的に調査研究を行いました。中央病理診断も行い、その必要性も確認しました。子宮体癌の75%(9/12)と子宮内膜異型増殖症の83%(15/18)がMPAにより完全寛解が得られ、子宮体癌で2人が妊娠、1人が出産、増殖症では5人が妊娠、4人が出産に至りました。若年性子宮体癌および子宮内膜増殖症に対して、MPAによる妊孕性温存療法は有用である可能性が示唆されました(Cancer Letter, 2001)。
      この調査研究に基づき、中央病理診断を加えて、同じ対象で第II相試験を行いました。MPAは600 mg/日、26週間(約6か月)投与で、投与中の評価法を統一し、投与終了後の管理も一定した方針で行いました。子宮体癌では55%(12/28)、子宮内膜異型増殖症では82%(14/17)で完全奏効(CR)が得られました。6か月でCRが得られなかった患者においても、延長投与により子宮体癌2人、子宮内膜異型増殖症2人でCRが達成されました。その後の経過観察において、子宮体癌では57%(8/14)、子宮内膜異型増殖症では38%(6/16)に再発が認められました。一方、妊娠を希望する20人のうち、11人、12件の妊娠が成立し7件の満期産が達成されました。MPAによる妊孕性温存治療は、有用な治療であることが示されましたが、同時に厳重な経過観察が必要であることも示唆されました(JCO, 2007)。
    2. 進行卵巣癌に対するNAC
      卵巣癌に対するNAC(術前化学療法)の臨床試験を行うための予備研究として、卵巣癌IV期についての調査研究を行い、360人が登録されました。初回手術でのoptimal debulking(OD)は31%で達成され、初回治療終了時に32%で臨床的完全寛解が得られました。5年生存割合は19%で、多変量解析により、OD、組織型、performance status(PS)が有意な予後因子でした。初回手術未施行または試験開腹患者をNAC群とし、それ以外を非NAC群として比較すると、両群の生存期間の中央値に有意差は認められず(20か月 vs. 23か月)、NAC群の患者は腫瘍量・年齢・PSでは不利であるにもかかわらず、高いOD割合によって生存期間が同等となっていると判断しました(Gynecol Oncol, 2001)。この結果を受けて、進行卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に対するfeasibility試験(第II相試験)であるJCOG0206を行い、さらに標準治療と比較する第III相試験JCOG0602を行いました。
    3. 子宮頸癌Ib-II期の肺再発病巣に対する手術療法
      参加施設で治療を行った子宮頸癌患者、全7748人のうち、29人で肺転移に対する手術療法が施行されていました。全体の5年生存割合は32.9%で、転移巣が2個以内では42.2%、3個以上では0%でした。また扁平上皮癌では47.4%、腺癌では0%でした。2個以内で扁平上皮癌の場合、手術により良好な予後が得られており、手術適応があると考えられました(The Annals of Thoracic Surgery, 2004)。
    4. 進行卵巣癌に対するに対するTAP(paclitaxel + adriamycin + cisplatin)の第I/II相試験
      目的はadriamycin(ADM)の最大耐用量と推奨投与量を決定することで、対象はIII、IV期卵巣癌の初回治療患者で、paclitaxel(PTX)110 mg/m2、cisplatin(CDDP)75 mg/ m2を固定し、ADMは20、30、40、50mg/ m2の4つの投与レベルを設け、1段階に6人ずつ登録して検討しました。3週間隔で6コースの投与を行い、最大投与量レベルでもMTDに達しませんでしたが、大多数でG-CSFの投与を要したことから、推奨用量はADM 40 mg/m2と結論されました(Gynecol Oncol, 2004)。
    5. 卵巣癌に対する妊孕性温存手術
      参加施設で妊孕性温存治療が行われたI期卵巣癌患者211人を対象に検討を行いました。明細胞腺癌とG3以外の組織型を予後良好組織型と定義しました。IA期の明細胞腺癌は5年生存割合100%、IC期の予後良好組織型では96.9%と、過半数で化学療法が追加されていたものの、従来から妊孕性温存手術の対象とされているIA期の予後良好組織型と同様の良好な予後が得られており、妊孕性温存治療を検討しうる対象と考えられました(JCO, 2010)。
      また、この結果に基づいて、上記対象に対して妊孕性温存治療の有用性を検証するために、JCOG試験として非ランダム化検証的試験(JCOG1203)を開始しています。
    6. APAMの臨床病理学的検討
      子宮ポリープ状異型腺筋腫(APAM)患者を29人集積して臨床病理学的検討を行いました。組織学的には浸潤子宮体癌との類似性を認め、子宮体癌との合併も17.2%に認められましたが、APAMの臨床経過は良好で、妊孕性温存治療の中では、子宮鏡下経頸管切除術(TCR)が有用であることが示されました(Gynecol Oncol, 2013)。
    7. IVB期子宮体癌に対する腫瘍縮小手術の検討
      手術療法を最初に行ったIVB期の子宮体癌248人を登録して臨床的検討を行いました。PS、組織型、補助化学療法の有無、手術時残存腫瘍径は多変量解析により独立した予後因子であり、手術時残存腫瘍を認めない患者は、1 cm以上の患者、1 cm未満の患者より有意に予後良好でした。腹腔外の遠隔転移を有する場合でも、腹腔内残存を認めない患者は、残存を有する患者より予後良好であることが示されました(Gynecol Oncol, 2012)。
      また、化学療法を先行した患者、緩和治療のみ行った患者を合わせた426人に関しても検討を行い、PS、組織型、腹腔内遠隔転移の有無、化学療法の有無、子宮摘出の有無が独立した予後因子であること、(良好な予後因子を有するものの)手術を先行した患者は予後良好であること、化学療法先行後に手術を行った患者は、手術を先行した患者と同等の予後であることが示されました(Gynecol Oncol, 2013)。
    8. 卵巣卵黄嚢腫瘍に対する予後因子の検討
      卵黄嚢腫瘍患者211人を登録し、予後因子の検討を行いました。多変量解析にて年齢22歳以上、AFP 33,000 ng/ml以上、術後残存腫瘍、BEP(bleomycin + etoposide + cisplatin)療法以外の化学療法が、独立した予後不良因子として抽出されました。
      BEP療法施行患者は、BEP療法以外の化学療法施行患者に比べて有意に予後良好で、BEP療法施行例の中では、減量投与を行った患者は、通常量投与を行った患者に比べて有意に予後不良でした。
      妊孕性温存手術を受け、BEP療法またはBEP療法以外の化学療法を受けたすべての患者が、化学療法後に月経が再開しており、いずれの化学療法においても、手術時未産で、その後結婚した患者の70%以上が生児を得ていました。以上より、卵黄嚢腫瘍に対する化学療法として、標準量のBEP療法が望ましいこと、BEP療法はBEP療法以外の化学療法同様、妊孕能にとって安全であることが示されました(EJC, 2015)。
    9. 子宮頸部神経内分泌腫瘍に関する多施設共同観察研究
      希少癌である子宮頸部神経内分泌腫瘍を対象とした多施設共同観察研究が行われ、193人の登録があり、世界最大規模の観察研究となりました。さらに本研究では病理中央判定を行い、診断の確認および組織型の細分類を行いました。早期例では手術と術後化学療法にて比較的良好な治療経過が確認されました。一方で通常組織型の標準化学療法であるTC療法は、神経内分泌腫瘍に対しては奏効が得られにくいこと、低異型神経内分泌腫瘍は化学療法への感受性が低いことが示され、WHO病理分類第5版2020年に引用されました(Gynecol Oncol, 2018;Gynecol Oncol, 2019)。
    10. 子宮頸部胃型腺癌の観察研究
      WHO2014で新規のカテゴリーである子宮頸部胃型腺癌(GAS)の調査研究を行いました。集積された393人の子宮頸部粘液性癌のうち中央病理診断及び適格規準を満たした328人を解析対象としました。328人中95人(28.9%)がGASと診断され、GASは腫瘍径4 cm以上、深部間質浸潤、高度脈管侵襲、基靱帯浸潤、卵巣転移、腹水細胞診陽性、リンパ節転移陽性、病理学的(pT)因子と関連していましたが、組織学的分化度とは関連がありませんでした。通常型腺癌(UEA)と比べて無病生存期間(P<0.0001)、全生存期間(p<0.0001)が短く、いずれも予後不良でした。(Gynecol Oncol, 2019)。
      さらに、GASにおける術後補助療法の解析において、術後の再発リスクの中リスク群では、補助療法なし群と放射線療法(RT)群が、同時化学放射線療法(CCRT)群と化学療法群に比べて、予後が良好な傾向でした。また高リスク群でも、RT群が、CCRT群と化学療法群に比べ予後良好でした(Eur J Surg Oncol 2022)。
    11. 子宮頸癌に対する根治目的の放射線治療または同時化学放射線療法後の頸部腫瘍残存例における救済的子宮摘出術の実施状況に関する調査研究
      根治的放射線治療または同時化学放射線療法を行った子宮頸癌において、治療後にも残存腫瘍を認める病態は極めて予後不良と考えられます。一方で、本病態に対し救済的子宮摘出術を安全に完遂することができれば予後良好という報告は散見されます。本調査研究では2005年から2014年までの10年間に根治的放射線治療または同時化学放射線療法後に頸部残存腫瘍を認めた患者を対象とした調査研究です。手術療法と化学療法の予後を比較し、手術に適切と考えられる集団を抽出することを目的として行いました。35施設から317例(手術群99例、化学療法群199例、放射線治療群8例、解析除外11例)の登録がありました。手術群と傾向スコアを用いてマッチングした化学療法群を比較したところ、全生存期間(p=00193)、無増悪生存期間(p=0.00463)と手術群で有意に良好の成績であり、完全切除には残存腫瘍径が重要な因子であることが示されました(p=0.0016)(BMC Cancer, 2020)。
    12. 子宮内膜間質肉腫に関する調査研究
      各施設で子宮内膜間質肉腫(ESS)と診断されていた148例に、免疫染色と融合遺伝子検索および中央病理診断を行いました。72例が低異型度子宮内膜間質肉腫(LGESS)、25例が高異型度子宮内膜間質肉腫(HGESS)、16例が未分化子宮肉腫(UUS)、残り31例は子宮体癌、癌肉腫、腺肉腫、平滑筋肉腫など別の腫瘍と診断されました。中央病理診断における診断時も病理医間の不一致率はUUS(94%)、HGESS(76%)と、LGESS(7%)に比べて高率でした。JAZF1-SUZ12とYWHAE-NUTM2A/BはESS以外に認められませんでした。ESSの病理診断は難しいケースがありますが、融合遺伝子検索が補助診断として有用であることが示されました(Hum Pathol 2022)。
    13. 卵巣漿液性境界悪性腫瘍に関する調査研究
      希少組織型の観察研究の1つとして実施され、289例の臨床情報が解析されました。その結果、 10年全生存割合は98.6%、無増悪生存割合は92.3%と良好でした。一方で35歳以下の患者では妊孕性温存手術を実施している頻度が高くなり、対側卵巣への再発率も高いことが判明しました。妊娠中の発症、妊孕性温存手術、大学以外の施設での治療、進行期、腫瘍径が再発の独立した危険因子であることが判明しました(Int J Clin Oncol2023)。

          

婦人科腫瘍(がん)について

婦人科で行うがん治療は他の領域のがんと異なり、昔から手術療法、放射線治療が行われてきました。しかし1980年代に入ると多数の抗がん剤が開発され、婦人科癌の領域でも効果が認められ、現在、前述の手術療法、放射線治療とともに重要な治療法となっています。最近はこれら3つの治療法を組合せることによって治療が行われ、治療成績も向上してきました。しかし、生存期間や副作用の観点から現在の標準治療はまだまだ満足できるものではありません。そこで本グループはさらに有効な標準治療の開発のため、より侵襲の少ない治療の開発のため臨床研究を行っています。本グループが取り扱うがんは子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、外陰癌など女性器のがんです。これらのがんの中で、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、若年者の子宮頸癌は日本で増加傾向にあります。そこで本グループは特にこれらのがんを対象として新たな標準治療の開発を行っています。

            

今後の展望

化学療法の臨床研究は比較的多くの研究グループで行われていますが、放射線治療など他科との連携を有する臨床研究や、手術療法を交えた集学的治療の開発に関わる大規模な臨床研究は、JCOGならではのものと考えています。今後は、現在進行中の試験を速やかに完遂するとともに、新たな研究としてはJCOGの共通課題の一つである、高齢者に関する臨床研究を推進して参ります。また、婦人科領域でまだ解決されていない諸問題について、若手のメンバーからなる定期的なミーティングで議論し、新しい研究テーマの検討も進めています。今後もJCOG独自の発想で、世界にも情報発信できる質の高い研究を行っていきたいと思います。

                      

※グループ活動の紹介文は、2023年12月に更新したものです

  

実績

        

その他の研究グループ