肝胆膵グループ Hepatobiliary and Pancreatic Oncology Group:HBPOG

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肝胆膵グループ Hepatobiliary and Pancreatic Oncology Group:HBPOG

  • グループ代表者:上野誠(神奈川県立がんセンター)

  • グループ事務局:尾阪将人(がん研究会有明病院)
    後藤田直人(国立がん研究センター東病院)

  • 主任研究者:上野誠(神奈川県立がんセンター)
    奥坂拓志(国立がん研究センター中央病院)
    水野伸匡(愛知県がんセンター)
    海野倫明(東北大学病院)
    中村雅史(九州大学病院)

  • グループ代表委員:今岡大(国立がん研究センター東病院)
    江﨑稔(国立がん研究センター中央病院)
    大場彬博(静岡県立静岡がんセンター)
    川本泰之(北海道大学病院)
    小林智(神奈川県立がんセンター)
    小林省吾(大阪大学医学部)
    白川博文(栃木県立がんセンター)
    寺島健志(金沢大学附属病院)
    戸髙明子(大分大学医学部附属病院)
    仲地耕平(栃木県立がんセンター)

  • 設立:2008年

         

※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担うメンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。

     

概要

肝がん・胆道がん・膵がんは、罹患数に対し死亡数が多く、極めて予後不良の疾患です。切除不能例に対する治療や根治切除後の補助療法など、薬物療法の役割は大きく、より有効な標準治療の確立が望まれています。
JCOG肝胆膵グループは、肝がん・胆道がん・膵がんに対する新しい治療法の開発や標準治療の確立を目指して、2008年4月に発足しました。
当初は16施設と小規模でスタートしましたが、現在は44施設がactive memberとして参加しています。Active member以外にも、肝胆膵がんの診療を積極的に実施している多くのオブザーバー施設がJCOG肝胆膵グループあるいは日本肝胆膵オンコロジーネットワーク(JON-HBP)を中心とした活動に参加しています。今後さらにactive memberを増やし、質の高い、意義のある臨床試験を積極的に推進してまいります。

       

疾患に対する取り組み

JCOG肝胆膵グループは、肝がん、胆道がん、膵がん、およびこれらの臓器から発生する神経内分泌腫瘍を中心に扱いますが、それぞれの疾患ごとに臨床的特徴や治療方針が異なります。
肝がんのほとんどを占める肝細胞がんでは、切除、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、薬物療法など様々な治療が肝機能やがんの進行度に応じて行われます。JCOG肝胆膵グループでは、陽子線治療の有用性を検証するため、JCOG放射線治療グループとの共同研究で、切除可能肝細胞癌に対する陽子線治療と外科的切除の非ランダム化同時対照試験(JCOG1315C)を行っています。
一方、切除不能の進行肝細胞がんに対しては、様々な薬物療法の開発が企業治験として進められ、2009年、ソラフェニブの肝細胞がんに対する適応が初めて承認されました。その後、レゴラフェニブ、レンバチニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブの適応が承認されました。さらに、免疫チェックポイント阻害薬併用療法として2020年にアテゾリズマブ+ベバシズマブが承認されました。今後、多数の薬剤をどのように使用していくか、また肝機能低下例での治療法の確立など、臨床的課題も上がってきています。JCOG肝胆膵グループでは、最適な薬物療法の確立を目指した取り組みを行っていきたいと考えています。
胆道がんは、肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がんが治療開発の対象に含まれます。切除不能進行がんに対しては、ゲムシタビン(GEM)+シスプラチン併用療法(GC療法)が、国際的な標準治療として広く行われてきました。JCOG肝胆膵グループでは、GC療法と、GEM+S-1併用療法(GS療法)の第III相試験(JCOG1113)を行い、GS療法のGC療法に対する非劣性が証明され、選択肢のひとつとして適応できることを公表しました。また、S-1を用いた術後補助療法の第III相試験(JCOG1202)を実施し、2022年ASCO-GIにてS-1術後補助療法が手術単独に対する生存期間における優越性を示した結果を報告しました。今後、S-1が術後補助療法の標準治療と位置付けられることになります。さらに、術前補助療法や進行例に対する分子標的治療など、新たな治療開発を目指した臨床試験を行っています。
膵がんの化学療法では、2013年以降、FOLFIRINOX療法とGEM+ナブパクリタキセル併用療法(GnP療法)が有効性の高い治療として頻用されています。JCOG肝胆膵グループでは、切除不能局所進行膵がんに対し、これら二つの治療法のどちらが標準治療のよりよい候補となるかを見極めるため、ランダム化第II相試験(JCOG1407)を実施し、ASCO2021でその結果を報告しております。局所進行切除不能膵癌においては、modified FOLFIRINOXとGnP療法が、標準治療オプションとなります。また遠隔転移例に対しても、これら二つの治療法に加え、S-1+イリノテカン+オキサリプラチン併用療法(S-IROX療法)を加えた3群による第III相試験(JCOG1611)を実施しています。これらの試験により切除不能膵がんに対する、より有効な治療選択が可能になるものと考えています。
神経内分泌腫瘍は、比較的進行の緩やかな高分化腫瘍と、悪性度の高い低分化がんに分かれ、悪性度により予後は大きく異なり、化学療法の選択も全く違っています。神経内分泌腫瘍はまれな疾患であり、臨床試験の実施が困難な対象です。JCOG肝胆膵グループは神経内分泌腫瘍の標準薬物療法を確立するため、他のJCOG研究グループと共同で臨床試験を進めています。

      

臨床試験

肝細胞がん
・JCOG1315C:切除可能肝細胞癌に対する陽子線治療と外科的切除の非ランダム化同時対照試験
放射線治療グループ主導の第III相試験であり、先進医療Bで実施しています。陽子線治療の外科的切除に対する非劣性が証明されれば、保険適用となり、標準治療の一つとして位置づけられるものと考えられます。

胆道がん
・JCOG1920:切除可能胆道癌に対する術前補助化学療法としてのゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS)療法の第III相試験
胆道がん切除の更なる治療成績改善を目指し、術前化学療法の確立を目指したランダム化比較試験を行っています。術前治療としては、切除不能胆道癌で良好な成績が報告されたゲムシタビン+シスプラチン+S-1療法(GCS療法)を用いています。

膵がん
・JCOG1407:局所進行膵癌を対象としたmodified FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法のランダム化第II相試験
FOLFIRINOX療法とGnP療法による臨床試験です。これら2つの治療法は、どちらも遠隔転移を有する膵がんに対する標準治療ですが、局所進行膵がんにおいても有効と考えられています。本試験は、局所進行膵がんに対し、どちらがより有望な化学療法かを見極めるためのランダム化第II相試験です。2021年ASCOにて結果を報告いたしました。
・JCOG1908E:切除不能局所進行/切除可能境界膵癌患者を対象としたS-1併用化学放射線療法+ニボルマブの ランダム化比較第III相医師主導治験
現在、局所進行膵癌での化学放射線療法のさらなる治療成績向上を目指し、免疫チェックポイント阻害薬併用によるランダム化試験を行っております。実施施設は全国14施設となります。
 -北海道大学病院
 -国立がん研究センター東病院
 -国立がん研究センター中央病院
 -杏林大学医学部付属病院
 -がん研究会有明病院
 -神奈川県立がんセンター
 -横浜市立大学附属市民総合医療センター
 -静岡県立静岡がんセンター
 -富山大学附属病院
 -金沢大学附属病院
 -愛知県がんセンター
 -京都大学医学部附属病院
 -九州がんセンター
 -長崎大学病院
・JCOG1611:遠隔転移を有するまたは再発膵癌に対するゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法/modified FOLFIRINOX療法/S-IROX療法の第II/III相比較試験
現在、遠隔転移を有する膵がんでは、国内外のガイドラインでFOLFIRINOX療法とGnP療法がいずれも第一選択の治療法として推奨されています。一方、FOLFIRINOX療法のフルオロウラシルとレボホリナートをS-1に置き換えたS-IROX療法の第I相試験が、国立がん研究センター中央病院で実施され、良好な結果が報告されています。S-IROX療法は、中心静脈ポートの留置が不要で利便性が高く、有用性の期待できる治療法です。
遠隔転移を有する膵がんに対して最も有用な治療法を確立するため、上記3つの治療法による第II/III相試験を実施しています。現在、第II相部分が終わり、第III相部分で患者登録中です。

神経内分泌腫瘍
・JCOG1213:消化管・肝胆膵原発の切除不能・再発神経内分泌癌(NEC)を対象としたエトポシド/シスプラチン(EP)療法とイリノテカン/シスプラチン(IP)療法のランダム化比較試験
低分化型神経内分泌がんに対する治療には、小細胞肺がんに準じてエトポシド+シスプラチン併用療法(EP療法)や、イリノテカン+シスプラチン併用療法(IP療法)が用いられてきました。しかし、これまでどちらがより有用な治療法か検証されていませんでした。本試験は、消化管と肝胆膵を含めた消化器全般に発生したNECを対象に、EP療法とIP療法を直接比較した第III相試験です。NECは、まれな疾患のため、肝胆膵、胃がん、食道がんの3つのJCOG研究グループが共同で実施し、2022年ASCO GIにて結果を公表いたしました。
・JCOG1901:消化管・膵原発の切除不能進行・再発神経内分泌腫瘍に対するエベロリムス単剤療法とエベロリムス+ランレオチド併用療法のランダム化第III相試験
進行・再発神経内分泌腫瘍はまれな疾患であり、治療選択肢が限られています。現在、エベロリムスとランレオチドを併用するランダム化試験を実施しています。本試験は、胃がんグループ、大腸がんグループと肝胆膵グループの共同研究として行われています。

小腸がん
・JCOG1502C:治癒切除後病理学的Stage I/II/III小腸腺癌に対する術後化学療法に関するランダム化比較第III相試験
小腸がんはまれな疾患であり、大規模な臨床試験の実施が困難なため標準治療が確立していません。本試験は根治切除後の術後補助療法として、切除手術単独とカペシタビン/オキサリプラチン併用療法を比較する臨床試験であり、大腸がんグループと肝胆膵グループの共同研究として行われています。

          

今後の展望

肝がん、胆道がん、膵がんに対する化学療法は、この数年の間に標準治療が確立し、大きく進歩してきました。しかし、まだまだ十分とは言えません。切除や放射線療法と化学療法との併用などの集学的治療、あるいは市販薬を組み合わせた併用化学療法など、医師主導でなければできない臨床試験も少なくありません。一方、多くの新規薬剤の開発は企業治験として行われますが、胆道がんや膵がん、さらに神経内分泌腫瘍は患者数が少なく、治療抵抗性なところもあり、企業が積極的に治験を行わない対象です。肝胆膵グループは、そのような企業主導ではできない臨床試験を医師主導治験や先進医療Bの制度を活用するなど、積極的に進めていきたいと考えています。
がん治療は、診療科や臓器専門別グループを超え、協力して取り組まねばならない疾患です。外科手術や放射線療法、化学療法など異なった治療手段の比較試験は、診療科を超えた共通の理解と協力が重要です。また、希少がんでは患者登録の点で臨床試験の実施が困難であり、グループを超えた多施設の協力が必要となります。肝胆膵グループは、他の消化器系グループや、放射線治療グループとの共同研究を積極的に進めています。また肝胆膵がんの臨床研究のすそ野が広がるよう、JCOG肝胆膵グループだけでなく、日本肝胆膵オンコロジーネットワーク(JON-HBP)と連携して臨床試験を進めています。肝胆膵グループの会議には、active member施設だけでなく、JON-HBP施設にも、オブザーバー参加いただいています。
JCOG肝胆膵グループは、肝がん・胆道がん・膵がんを専門とする多くの施設が参加しており、肝胆膵領域ではわが国最大の臨床研究グループです。さらに内科、外科、放射線科、病理医の間の協力関係も良好と自負しています。切除不能例に対する治療だけでなく、周術期の治療を含め、わが国から世界に向けてエビデンスを発信していくことができると考えています。

      

※グループ活動の紹介文は、2022年6月に更新したものです。

    
     

実績実績

        

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