肺がん外科グループLung Cancer Surgical Study Group:LCSSG

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肺がん外科グループ Lung Cancer Surgical Study Group:LCSSG

  • グループ代表者:渡辺俊一(国立がん研究センター中央病院)

  • グループ事務局:青景圭樹(国立がん研究センター東病院)
    四倉正也(国立がん研究センター中央病院)

  • 主任研究者:渡辺俊一(国立がん研究センター中央病院)
    青景圭樹(国立がん研究センター東病院)
    岡田守人(広島大学)
    釼持広知(静岡県立静岡がんセンター)
    塩野知志(山形大学医学部)
    坪井正博(国立がん研究センター東病院)
    菱田智之(慶應義塾大学病院)
    鈴木健司(順天堂大学医学部附属順天堂医院)

  • グループ代表委員:伊坂哲哉(神奈川県立がんセンター)
    井坂光宏(静岡県立静岡がんセンター)
    遠藤誠(山形県立中央病院)
    中嶋隆(大阪市立総合医療センター)
    服部有俊(順天堂大学医学部)
    馬庭知弘(大阪国際がんセンター)
    見前隆洋(広島大学)
    三好智裕(国立がん研究センター東病院)
    吉岡弘鎮(関西医科大学附属病院)

  • 設立:1986年

※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担うメンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。

          

概要と背景

肺がん(呼吸器の悪性腫瘍)は1950年以降、男女とも一貫して増加しており、かつ、予後不良の難治がんと考えられています。2017年の部位別がん罹患数でみると、男性では、前立腺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位、女性も乳がん、大腸がんに次いで第3位(男女計で第3位)となっていますが、2018年の部位別死亡数では、男性では第1位、女性は第2位(男女計では第1位)です。このことからも、肺がんの特性が分かります。すなわち、

  1. 患者数の多い主要がんである。世界的にも患者数が多く、本邦特有のがんではない。
  2. 早期発見が困難で、本邦においても外科切除率は50%以下に過ぎない。
  3. (本邦で男女計の罹患数が第3位にもかかわらず、死亡数が首位であることから)予後不良の難治がんである。
  4. 病理組織型が多様であり、治療反応性の違いから、治療戦略も多様である。病期以外にも病理学的特性が、治療指針決定のうえで重要である。

ということです。これらのことからも

  1. 治療成績のわずかな改善でも、患者さんへの予後改善に与える影響は大きい。
  2. 標準治療の設定には、病期、臨床病理学的/分子生物学的特性を考慮にいれた臨床試験が必要である。
  3. 進行がんが多いため、外科手術に加えて、内科的治療や放射線治療を組み合わせた集学的な取り組みが必要となることがある。

ということが考えられます。JCOG肺がん外科グループでは、2020年現在、肺がん治療において日本国内の主要な施設が50施設以上参加しています。このような多施設での共同研究体制の下に、標準治療を設定してゆく枠組みの重要性が、特に外科領域では高いと認識しています。外科切除は、肺がん治療においては、比較的早期の病期を対象としますが、より早期の肺がんや、反対により進行期の内科治療との境界領域にあるがんで、標準治療が定まっていない対象についても研究を進めたいと考えています。

        

肺がん外科グループ研究の足跡

肺がん外科グループは、1986年に設立されたJCOGの中では6番目に古いグループです。グループ設立当初の多施設共同研究は、術後補助化学療法、術前化学(放射線)療法など外科切除を含む集学的治療に力点を置いていました。肺尖部胸壁浸潤がん(パンコースト腫瘍)に対する化学放射線療法後の外科切除の有効性を評価したJCOG9806の結果は、アメリカで行われた同様の試験の結果と併せて、この腫瘍の標準治療の確立に貢献したと考えています。
早期の肺がんに対しての治療開発も精力的に行ってきました。手術前のCT画像から、リンパ節転移がなく手術した後に再発や転移することがないであろう早期肺がん(非浸潤がんといいます)を選び出す試験(JCOG0201)を行いました。その結果、2 cm以下で芯(consolidationという濃い影の部分)が小さい、すりガラス状の陰影が主体の腫瘍影を(画像上の)「非浸潤がん」と規定しました。現在、我々は2 cm以下の小型肺がんを対象にして、この結果を確認すると同時に、縮小手術(区域切除、くさび状切除)の確立を目指した2つの臨床試験JCOG0802/WJOG4607L(肺葉切除と区域切除を比較する第III相試験)とJCOG0804/WJOG4507Lを西日本がん研究機構(WJOG)と共同で行っています。JCOG0804/WJOG4507Lはすでに結果が公表されており、画像的な非浸潤肺がんは縮小手術で十分治療しうることが検証されました。JCOG0802/WJOG4607Lの結果は未だ公表されておらず、また米国でも同様な試験(CALGB140503)が同時期に行われており、2つの試験の結果に世界が注目しています。このほかに、2 cmを超えるすりガラス状の陰影主体の肺がん(3 cm以下)に対しても区域切除の妥当性を検証する試験(JCOG1211)を行っており、こちらも2021年に結果公表の予定です。今回、JCOG0804/WJOG4507Lの対象は縮小手術を行っても、その予後は極めて良好でした。この結果を受けて、同様な対象において手術を回避できる患者さんがいる可能性があり、経過観察を行うことの妥当性を検証するJCOG1906試験も実施しています。
また、適切なリンパ節郭清範囲の確立を目指し、JCOG1413という臨床試験を行っています。臨床病期I-II期の肺がんに対して、リンパ節郭清の範囲を縮小した選択的郭清法が、現在世界的に標準となっている系統的郭清と有効性が変わらないか否かを検証する、世界でも類を見ない大規模比較試験です。
一方、間質性肺炎を合併した肺がんに対しても、至適な手術方法を明らかにするため、JCOG1708試験を行っています。術後に間質性肺炎が悪化することを防ぐことと肺がん治療成績を担保することにおいて、肺葉切除と縮小手術のどちらが優れているかを検証するための試験です。また、併存疾患が多く、肺葉切除のリスクが高い患者さんにおいて、区域切除とくさび状切除のどちらが妥当かについて検証する試験も行っています。
進行肺がんについては、先述したパンコースト腫瘍と呼ばれる難治性肺がんに対するJCOG9806試験の後継試験として免疫チェックポイント阻害剤を併用した新たな集学的治療の開発のための臨床試験(JCOG1807C試験)も肺がん内科グループ、放射線治療グループと共同で行っています。本試験は、薬剤の適応外使用を含んだ当グループ初の先進医療Bで行われ、薬剤の適応拡大と新たな標準治療確立を目指した試験です。
現在、手術が行えても病理学的にリンパ節転移を認める患者さんの予後は悪いのが現状です。術後の補助化学療法に加えて行う術後放射線治療(PORT)の有効性と安全性を検証するJCOG1914試験も放射線治療グループと共同して開始しています。

上述してきたように当グループはさまざまな対象において、臨床試験を行い、それぞれでの標準治療の開発を目指しています。

           

方向性と課題

  1. 早期がんへの対応
    近年の画像診断法、特にCT画像技術の進歩によって、小型で早期の肺がんが高頻度で日常臨床において発見されるようになっています。また、2011年には、NCI(アメリカ国立がん研究所)が行った高リスク集団を対象とする低線量CTと単純胸部X線写真の間でのランダム化試験(NLST:National Lung Screening Trial)の結果が公表され、CT検診によって有意に肺がん死亡率が低下することが示されました。今後は、より早期の肺がんに対する標準治療の確立もより大きな課題となってきました。このため、肺がん外科治療において低侵襲、肺機能温存は極めて重要であり、今後は他の局所療法(定位放射線治療など)との比較を視野に入れた更なる機能温存を目指した研究戦略が必要であると考えています。
  2. 切除例のさらなる予後改善を目指して
    現在、肺がんに対する手術適応は、非小細胞がんで臨床病期I期、II期とIIIA期の一部、小細胞がんでは臨床病期I期、とするのが標準ですが、それら切除例の5年生存率は約70%です。再発形式としては、他臓器での遠隔転移が多くを占めることから、再発の制御には全身補助化学療法に着目せざるを得ません。しかし、その予後改善効果は、5年生存率で5-10%程度の向上と決して十分ではないこと、また再発しない患者さんまで投与の対象となることなど問題点もあります。今後は、現在進行中のトランスレーショナルリサーチの成果を取り入れながら、再発の高危険群を特定し、分子標的薬や免疫治療薬を含めた最新の薬物療法レジメンを投入して、実効性の高い治療法の開発に注力したいと考えています。さらに、IIIA期より進行した局所進行肺がんについては、化学放射線治療の同時併用が標準とされていますが、これに局所治療である外科切除を付加することによって、予後の改善が可能ではないかと考えられ、これを検証するための臨床試験が少数ですが行われてきました。今後は、こういった局所進行肺がんやさらに進行した肺がん患者さんを対象とする多モダリティ治療の開発にも取り組んでゆく必要があります。肺がん内科グループや放射線治療グループとも連携して、治療困難な患者に対しても治療成績の向上を目指した試験に取り組んでいきたいと思っています。
  3. 希少肺がんに対する取り組み
    肺がんの中にもまれな種類のがんが存在しています。神経内分泌特性をもった肺がんは、もともと患者さんの数が少ないので治療開発が遅れており、エビデンスも乏しいことが問題となっています。当グループでは、これら希少腫瘍についても多施設共同研究の利点を生かして、その標準治療確立を目指したいと考えます。
  4. 高齢者肺がん外科治療についての取り組み
    近年の高齢化社会に伴い、肺がんの患者さんも高齢化が顕著です。肺がんの外科切除例も近年では80歳以上の患者さんの割合が10%を超えています。高齢者に対する肺がん外科手術のQOLの現状を把握し、リスクの高い高齢者を明らかにするJCOG17010A試験も進行中です。
  5. 肺がん以外の胸部悪性腫瘍に対する取り組み
    胸部領域には、肺がん以外にも、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍など、標準治療が確立されていない腫瘍が存在します。肺がん外科グループとしては、これら希少腫瘍についても、多施設共同研究の利点を生かして、標準治療確立を目指したいと考えます。

         

おわりに

今回ご紹介した通り、肺がんの予後を少しでも向上させるべくグループ内で多数の臨床試験を実行しており、またさらに多くの新たな臨床試験を計画中です。JCOGの理念である「前向きの多施設共同臨床試験により有効性の高い標準治療(最も効果的な治療)を確立して、その研究成果を国内外に発信し、がん患者さんの診療の質と治療成績の向上を図る」を常に心に抱きながら、今後もグループ一丸となって研究活動に邁進していく所存ですので、ご理解、ご支援の程よろしくお願い申し上げます。

       

※グループ活動の紹介文は、2020年10月に更新したものです。

        


実績

        

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