食道がんグループ Japan Esophageal Oncology Group:JEOG

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食道がんグループ Japan Esophageal Oncology Group:JEOG

  • グループ代表者:竹内 裕也(浜松医科大学医学部)

  • グループ事務局:對馬 隆浩(静岡県立静岡がんセンター)
    松田 諭(慶應義塾大学医学部)

  • 主任研究者:竹内裕也(浜松医科大学)
    坪佐恭宏(静岡県立静岡がんセンター)
    松田諭(慶應義塾大学医学部)

  • グループ代表委員:石山廣志朗(国立がん研究センター中央病院)
     今関洋(国立がん研究センター中央病院)
    尾形高士(神奈川県立がんセンター)
    柏原大朗(国立がん研究センター中央病院)
    川久保博文(慶應義塾大学医学部)
    小柳和夫(東海大学医学部)
    坂中克行(京都大学医学部附属病院)
    陳勁松(がん研究会有明病院)
    平田賢郎(慶應義塾大学医学部)
    伏木邦博(静岡県立静岡がんセンター)
    山本駿(国立がん研究センター中央病院)

  • 設立:1978年

                     

※グループ代表委員とは、グループで行われる臨床試験の計画、実施の際に中心的な役割を担うメンバーです。
※主任研究者に関する詳しい情報は、共同研究班一覧をご覧ください。

                  

概要

食道がんグループは、JCOGの母体となったがん研究助成金「がんの集学的治療の研究」班が、1978年に発足した当初から、その後のJCOGの立ち上げを経て40年以上にわたり、がんの臨床試験を継続してきた歴史のある研究グループです。
進行食道がんは、その生物学的特性と解剖学的制約のために、外科手術のみでは治癒が困難な癌です。そのため、手術のみならず化学療法、放射線療法などを合理的に組み合わせる集学的治療により、治療成績の向上を目指してきました。
食道がんグループは、その時代時代の標準治療を検証し確立するために、ランダム化比較試験(RCT)を継続してきました。比較的早期の食道がんに対する手術や化学放射線療法から、進行癌への手術や手術前後の補助療法、さらに高度進行癌に対する化学療法や放射線治療を用いた比較試験、未承認薬を用いた医師主導治験も行っています。
現在は、北海道から九州までの56施設が参画し、多施設共同研究を展開しています。

   

研究のあゆみ

食道がんグループがスタートした1978年当時は、現在のようなEvidence Based Medicineという概念は希薄で、術前照射(放射線治療)が広く行われていました。
従って第1次研究(1978~81年)では、術前30 Gy照射+テガフール座剤と、30 Gy照射+ブレオマイシンとのRCTを行い、術前30 Gy照射+テガフール座剤の生存割合がやや良好で、副作用も少ないという結果が得られました。
しかし、術前照射が術後生存期間の向上に寄与しているか否かの議論には明確な解答はなく、第2次研究(1981~84年)として術前・後照射(30+24 Gy)と、術後照射(50 Gy)とのRCT(JCOG8201)を行いました。生存期間中央値は術後照射群が良好であり、その結果、本邦での補助療法の実施時期は、80年代以降、術前から術後に移行しました。
80年代前半より、本邦でも食道がんに対する化学療法としてシスプラチンが広く使われるようになり、第3次研究(1984~87年)として術後照射(50 Gy)と、術後化学療法(シスプラチン+ビンデシン)とのRCT(JCOG8503)を行いました。両療法による生存期間には明らかな差は認められず、それまで標準治療として本邦で広く行われてきた50 Gyの術後照射と、同等の効果を示すことが証明されました。
この頃より食道がん手術の補助療法に、放射線療法よりも化学療法が選択される時代へと移行してゆきました。
第3次研究の頃より、外科手術の質の向上、特にリンパ節郭清の精度が上がりました。そこで第4次研究(1988~91年)では、手術単独に対して術後化学療法が、生存期間の延長効果を発揮するか否かをRCT(JCOG8806)で比較検討した結果、両療法の生存期間の間に明らかな差は認められませんでした。
しかし食道がんに対してより有効な抗がん薬は、シスプラチン+ビンデシンに代わって、シスプラチン+5-FUであることが判明しました。そこで第5次研究(1992~97年)として、手術単独と術後化学療法(シスプラチン+5-FU)とのRCT(JCOG9204)を行った結果、術後化学療法による再発予防効果が認められ、手術単独ではなく手術+術後化学療法が標準治療となりました。
抗がん薬の投与方法として、術後ではなく術前に投与する術前補助化学療法があります。そこで手術の前後どちらに抗がん薬を投与すべきかを検討するために、第6次研究(2000~06年)として、術後化学療法(シスプラチン+5-FU)と、術前化学療法とのRCT(JCOG9907)を行いました。その結果、術前化学療法による生存期間延長が認められ、術後よりも術前投与が標準となりました。
その治療成績のさらなる向上を目指し、術前化学療法(シスプラチン+5-FU)に対して、より強力な術前化学療法(シスプラチン+5-FU+ドセタキセル)、あるいは術前化学放射線療法(シスプラチン+5-FU+放射線療法)の効果が優れているかどうかを検証する試験(JCOG1109:略称NExT)を行いました。2022年にその結果が公開され、シスプラチン+5-FU+ドセタキセルを用いた3剤併用術前化学療法の有効性が示され、あらたな標準治療となりました。
2020年2月に食道がんに対して免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブが適応承認されました。食道がんに対する新規薬剤の承認は8年ぶりのことであり、今後の食道がん治療を変えるものと期待されています。JCOG1109と時期をほぼ同じくして、術前化学放射線療法+手術が標準治療であった欧米において、術後にニボルマブ療法を追加することの有用性が示されました。しかし、本邦における術前化学療法+手術の成績は、欧米の術前化学放射線+手術の成績を上回ることなどから、術前化学療法+手術+術後化学療法の有用性はあきらかではないと考えられています。そこで、術後ニボルマブ療法、または当グループの有志で検討し有望と考えられたS-1療法の有効性を明らかにするための試験(JCOG2206:略称SUNRISE)が2023年より開始となりました。
手術手技についても、近年急速に胸腔鏡下食道切除術が行われるようになり、従来行われてきた開胸による食道切除術よりも、患者さんの負担をより軽減できる可能性が出てきました。そこで切除可能な食道がんの患者さんを対象に、胸腔鏡下手術と、開胸手術を比較する試験(JCOG1409:略称MONET)を実施しています。さらに、最近の術前化学療法の進歩や、胸腔鏡手術を中心とした手術成績の向上に伴い、本邦の食道がん手術において採用されてきたリンパ節郭清の範囲を縮小することができないかについて問うための臨床試験(JCOG2013:略称MODERN3)も開始しております。
本邦における食道がんの多くは食道扁平上皮癌ですが、昨今、食道と胃の境界部に発生する食道胃接合部腺癌が増加し、その治療開発の重要性が増しています。そこで、JCOG食道がんグループでは、胃がんグループと協同し、食道胃接合腺癌に対する、術前化学療法+手術+術後化学療法の、手術+術後化学療法に対する優越性を明らかにすることを目指した試験(JCOG2203:略称NEO-JPEG)を2023年より開始いたしました。

これまでに述べてきた、手術が可能な食道がんに対する補助化学療法の研究の他に、90年代後半より急速に普及してきた、化学放射線療法(化学療法と放射線療法との併用)の有効性を進行度の異なる食道がんに対して検証してきました。
まず切除が不可能な高度の進行がんに対する有効性と安全性を検討し(JCOG9516)、高度の進行がんには姑息的な手術よりも、化学放射線療法が第一選択となりました。
また、化学放射線療法の投与方法による比較を行い、連日抗がん薬を少量投与する方法よりも、4週間毎にまとめて投与する方法のほうが、よりよい治療であるという結論を導きました(JCOG0303)。
現在、切除が困難と思われる局所進行食道がんに対して、強力な化学療法(シスプラチン+5-FU+ドセタキセル)を行った後に、化学放射線療法あるいは手術を行うのがよいのか、それとも最初から化学放射線療法を行う方がよいのかを比較する試験(JCOG1510:略称TRIANgLE)を実施中です。
逆に深達度の浅い小さな早期のがんに対する化学放射線療法の効果をみたところ(JCOG9708)、これまで行ってきた手術に匹敵すると思われる成績が認められました。そして、手術あるいは化学放射線療法のどちらが標準となるかの検証試験(JCOG0502)を行いました。Stage I食道がんに対して同時期に手術を希望した患者さんと、化学放射線療法を希望した患者さんの治療成績を、背景因子を調整したうえで比較したところ、同程度の5年生存割合が示され、化学放射線療法がより重要な選択肢として患者に提示できるものになりました。ただし、がんの再発については化学放射線療法群で多く認められたため、現在、再発を低下させることを念頭に、放射線照射範囲や、薬剤の量を調整した新たな化学放射線療法を、以前のものと比較する試験(JCOG1904:略称ARMADILO)を実施中です。
また、手術可能ながんに対しても、食道の温存が可能な化学放射線療法をまず行い、がんが残った場合、あるいは再発した場合に手術を行う戦略で、手術に匹敵する生存期間が認められるかどうか検証しました(JCOG0909)。その結果、先に化学放射線療法を行っても、十分に良好な治療成績が示せることがわかりました。また、放射線治療後に行う救済手術も安全かつ有効に行えることを示しています。
遠隔転移を持つ食道がんや、再発した食道がんに対しては、20年前よりシスプラチンと5-FUという薬剤の組み合わせが用いられてきました。食道がんグループでも、JCOG8807やJCOG9407で、いくつかのスケジュールや投与量の異なるシスプラチンと5-FUの併用療法を検討してきました。
その後、シスプラチンと5-FUにドセタキセルという薬剤を併用すると治療効果が上がるが、毒性も増えることが報告されました。そこで食道がんグループでは、ドセタキセルを2週間毎に分割投与することで、有効性を維持したまま毒性を軽減できることを示しました(JCOG0807)。
現在は、遠隔転移をもつ進行再発食道がんに対して、シスプラチンと5-FUの併用療法と、それにさらにドセタキセルを併用した治療の生存期間を比較する試験(JCOG1314:略称MIRACLE)を行っています。
比較的まれな腫瘍である神経内分泌細胞がんは、食道、胃、大腸、膵臓、胆道、肝臓などの臓器に発生することが知られています。食道がんは、95%が扁平上皮癌という組織型であり、神経内分泌細胞がんは、わずか数%しかなく、治療法も決まったものはありませんでした。JCOGでは、肝胆膵、胃がん、食道がんの3グループが共同で、まれながんである神経内分泌細胞がんに対して、イリノテカン+シスプラチン療法がよいのか、エトポシド+シスプラチン療法がよいのかを比較する臨床試験(JCOG1213:略称TOPIC-NEC)を行い、両治療の有効性は同じ程度に良く、いずれも標準治療と結論されました。
また、JCOG食道がんグループでは、医師主導治験として、術前化学療法にニボルマブを併用することの有効性と安全性を評価する医師主導治験(JCOG1804E:略称FRONTiER)を開始しました。製薬企業が手を出しにくい、集学的治療における新薬の開発を、われわれ研究者が主導して結果を出していくことがとても重要と考えています。

      

今後の展望

食道がんグループは、これまでの研究の膨大なデータをもとに、臨床での疑問に答えを出すべく、さまざまな解析を行い、成果として発表しました。15編もの論文が、食道がんガイドライン2022年版に引用され、実際の臨床現場において用いられています。
現在、ニボルマブの有効性を高めるために放射線を併用する治療法の開発や、バイオマーカーを検討するための試験、外科手術により切除することが困難な食道癌に対する導入化学療法の試験、多彩な背景を持つ高齢の患者さんにとって、どのような治療が最適なのかを調べるための研究など、様々な試験を計画中です。また、患者さんの声を聴きながら臨床試験を行うことを考えています。実際にJCOG1904試験の患者説明同意文書は、患者さんの声を参考に作られました。今後もこのような取り組みを進めていきたいと考えています。

今後も内視鏡治療、手術療法、放射線療法、化学療法の専門家集団として、集学的治療を用いて、よりよい食道がん治療の開発を行っていく予定です。

       

※グループ活動の紹介文は、2023年5月に更新したものです。

         

実績

        

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